根回しは日本企業の大きな特徴です。事前に意見を汲み取れるメリットがあるものの、意思決定プロセスが形骸化していると意思決定の遅さを招いてしまいます。会議の在り方から働き方改革を考えてみませんか?
シリーズ前回の記事は「残業を減らしたくない日本人に働き方改革はできるのか – 働き方ディスカッション (3)」
日本企業における意思決定のプロセスにストレスを感じる人も多い
海外企業が抱く日本企業の印象として、会議で何も決まることができないというイメージがあると聞きました。意思決定者が集まっていると思っても結局持ち帰って検討すると言ってしまい、結論が得られません。決断できる人をそもそも会議に呼んでほしいと外国企業がストレスを感じる結果に陥ります。
海外企業で働いたり、海外の学校で勉強をしたりしていると、日本と欧米で議論の進め方に違いがあると感じるようになりました。英語としては理解できても、何でそんな発言をするのかが理解できず、困ってしまうケースが多々あります。当たり前のことを堂々と主張されると、それに何か裏があるのだろうかと勘繰ってしまい、結局、言外の意味はなく、議論に置いていかれるといった具合です。周りから見ると、何でこんな簡単な議論で発言できないのだろうと思われているかもしれません。このような議論の進め方、意思決定の仕方の違いは、根深い考え方の相違があるのだと思います。
終身雇用が当たり前ではない時代に「根回し」スキルは必要か
オンライン生放送学習サービスSchoo(スクー)で「ここが変だよ、日本人の働き方 ー海外から見た日本から考えるこれからの働き方ー」の講義を行った際、日本での意思決定の仕方について意見を伺いました。
日本ではコンセンサスを得られるまで、ひたすら資料を作成し、なかなか行動へ移せないといったコメントが見られました。会議で提案を行う際には、正式な提案書を作成するプロセスが必要なのは当然であるものの、意思決定の手順が明確でないと、納得感が生まれないのでしょう。能力のある人が意思決定を行う、極力現場に権限を委譲する、といった対策が考えられます。意思決定者が明確でないまま会議が進んでしまうと、時間の無駄に終わるリスクが高まります。
反論が出ないのに決裁に時間がかかってしまうとストレスを感じるという意見がありました。会議や承認プロセスを定期的に見直し、形骸化していないか確認する必要がありそうです。形式にとらわれず、成果を高める方法を考えるというのは、生産性向上・働き方改革にもつながります。
会議には、いくつかの種類があります。参加者の中にはブレインストーミング、情報共有、決裁と、会議を目的別に構成しているという方がいました。目的を明確にすると、議論が発散せず、無駄に時間を費やすことも少なくなるかもしれません。例えば、ブレインストーミングでは、リスクや問題点を指摘するよりも、他人のアイデアから別のアイデアを発想して、アイデアを膨らませるのがルールです。この場合に、後ろ向きな発言ばかりする人がいては、ブレインストーミングも進まなくなってしまいます。
「根回し」日本の会社では重要なステップです。意思決定は会議の外で行われ、会議は報告に過ぎないという会社もあるようです。いわゆる“しがらみ”が強く、調整に時間がかかってしまう場合や、コミュニケーションが円滑に進まない場合、根回しに時間を費やしてしまいます。一方で、他者からの意見を事前に汲み上げるため、会議を簡素化できるという利点もあるのかもしれません。
根回しはその企業に根付いた仕事なので、転職すると意味が無くなるスキルです。終身雇用の傾向が薄まり、副業・複業が増えていく時代には、根回しの在り方も変わってくるのでしょう。
意思決定の質はともかく、上司の権限が強く、ピラミッド型・中央集権型の組織構成は意思決定が早いという指摘がありました。軍隊のようなシステムでは早い意思決定が求められるので、能力の高いボスに従って迅速に行動するようになるでしょう。一方で、皆が平等に権限がある横並びの組織では意思決定が遅くなりがちです。オープンソースのソフトウェア開発のように、多様な意見から方向性を決めていく場合、民主的なプロセスが好まれます。企業の文化や場面に合わせてプロセスを決めていくのが賢いやり方です。
海外企業に派閥や根回しは存在しないのか
スクーの講義では「海外の会社では派閥的なものは存在しないのでしょうか?」という質問がありました。個人的な印象では、より直接的な利害関係でつながったグループは存在するように思います。この上司についていけば昇進できる、ウマが合うので成果が上げやすいといった人たちはコネを駆使して仕事をしているでしょう。年功や学閥といった緩いつながりのグループは少ないように感じています。
また、「会議の場では、やはり日本人の考え方は弱いですか?」という質問も受けました。議論の進め方が異なるので、人によって受け取り方が異なってしまうという傾向はあると思っています。Noと言えない日本人といった言葉があるように、相手を否定する表現を避けたり、さらに、相手がNoと言わないように“忖度”したりしながら会話するのが日本人のコミュニケーション方法です。一方で、海外では些細な意見の違いでもNoと言います。自分は人とは異なる意見を主張しているというアピールです。単純に言葉を翻訳しただけでは伝わらないコミュニケーションの違いが、会議での振る舞い方の違いにもつながっていると思います。
シリーズ次回の記事は「働き方改革と学び方改革。正解のない問いに答える準備はあるか – 働き方ディスカッション (5)」