人の思考習慣は教育から大きな影響を受けています。暗記重視で正解を求めるよう育てられた人は、問題を発見し新たな解法を提案するのを苦手とするのは当然です。日本と海外の教育に対する考え方を踏まえながら、現代にあった教育の在り方について考えてみましょう。
シリーズ前回の記事は「意思決定プロセスから働き方改革を考える – 働き方ディスカッション (4)」
既存の考え方を習得させる日本。多様な意見の発想を促す海外
私が日本で受けてきた教育は、教師による一斉授業です。「今日は〇〇について学びます。教科書の何ページを開いてください。○○の定義とは××で、こんな場面で使われます」といった具合です。
海外の学校に通い、講義形式の授業を受けてみると、まず、出だしから違いがあり、面食らったものです。「〇〇とは何でしょうか。意見を言ってください。はい、そうですね。そんな考えもありますね。では、教科書では何と書いてあるでしょう。一緒に見てみましょう」という展開です。教育の考え方が異なると、開始30秒で戸惑いを感じてしまいます。
企業に入ってからも、教育の考え方は変わってくるものです。日本企業では、その会社のやり方を学ぶのが始めのステップです。その会社に固有の進め方もあるので、まずは、上司の背中を見て学んでいきます。頻繁に転職が行われない業界では、人材育成に対する意識も高く、企業が責任を持って学びの場を提供しています。
海外の場合、その人の意見が求められます。職責が明確なので、既存のやり方を踏襲しつつも、その人が実施するべき仕事を全うする必要があります。過去の経験を活かして新たな提案をしなければ、何のためにあなたは雇われたの、と言われかねません。人材育成はより直接的で、目の前の業務をより良く行うために訓練や研修が施されますが、日本より終身雇用の性格が薄いので、長期的なキャリア開発まで面倒を見てくれるわけではありません。
どちらが良いというものでもありませんが、それぞれに異なる点があるのを認め、良い所を取り入れていく態度が望ましいと思われます。
主体的に学習するアクティブラーニングに感じる現代に合った学び
オンライン生放送学習サービスSchoo(スクー)で「ここが変だよ、日本人の働き方 ー海外から見た日本から考えるこれからの働き方ー」の講義を行った際、日本の教育制度について意見を募りました。自分の受けてきた教育や、自分の子供が受けている教育について思うところのある人も多く、白熱した議論が見られました。
最近は生徒が主体的に学ぶアクティブラーニングへの関心が高まり、生放送で受けたコメントでも、双方向性の授業が期待を集めています。インターネットを使えば、必要なときに必要なものを学べる時代です。自分で課題を見つけ、情報を収集し、解決策のアイデアを考案するようなプロセスを体得するのが、現代の教育に求められています。基礎的な学力をコツコツと身に付けるステップにもメリットはあるものの、暗記偏重にならず、発想力にも価値を認めるような考え方の変化が必要です。
コメントの中では、日本人は「できることよりもできないことを見過ぎている」という意見がありました。暗記や試験を中心にした教育では、想定された回答を導き出せるかどうかで画一的に評価されてしまいます。しかし、現実的な世界では、正解が一つというケースはむしろ少なく、何事にも複数の考え方があってしかるべきです。個人的な意見を述べる場面や、ディベートを行う機会を増やすというのも一つの考え方です。「習っていない解法は正解にしない」といった硬直的な評価ではなく、柔軟な評価方法が求められているのかもしれません。個人には向き・不向きがあり、それを尊重しながら生きていく訓練が教育にも組み込まれるのが望ましいとの意見が挙がりました。
教育の世界から外に出ると、「正解の無い問い」に応えなければならないケースの方が多くなってきます。そもそも人生の歩み方に正解はありません。会社の経営にも正解はなく、後で振り返って結果を知ることしかできないでしょう。そんな現代に合わせて、教育の場でも、正解の無い問いを考える時間を確保した方がよいという提案がありました。
社会人にも必要な、好きなことを見つけて学びを楽しむプロセス
海外での教育を経験した参加者の方からは、意見を述べるのが苦手で滞在中苦労したという体験談がありました。子供の頃から個人の意見を持ち、人と異なる意見を交換し合う習慣があると良いという指摘です。高校世代から交換留学を活発化させるなど、より他の言語や文化に触れる機会があると、自国への理解を深め、自国の強みを理解するきっかけになります。日本と海外の教育現場をスカイプでつなげて交流するなんて言う素敵なアイデアも見られました。
教育は子供だけの問題ではなく、社会人になってからも続いていくものです。専門性を深めたり、弱みを強みに変えたりする試みは何歳になっても有効でしょう。生放送を実施したスクーのように、双方向性の授業によって学習体験を深めていくのは優れた考え方だと思います。
個人的に印象に残ったコメントとして、「まずは学びを楽しまなければいけない」という指摘を上げたいと思います。好きなことには積極的に取り組むし、学んでいても苦になりません。勉強は辛くて苦労するものだという発想から離れ、わくわくしながら新たな情報を吸収し、スキルを体得するよう考え方を転換したいものです。さらに、自分が楽しいと思えるものを見つける作業にも注目したいと思います。自分が何をやりたいかが分からないという人も少なくありません。様々な事柄に挑戦し、見聞を広め、自分の好みに合致したものを見つけるプロセスも、教育の一環として考えるべきだと思います。