日本の企業文化に親しんでいると、海外企業では異なる文化に驚くことがたくさんあります。メールに返信しない上司、指示に従わない天邪鬼な部下に、どのように対応すればよいのでしょうか。
メールに返信しない上司とどう渡り合うか
海外企業で働くようになり、日本と大きく異なると思った点として「メールへの返信」が挙げられます。日本では、社内外を問わず、メールを出せば95%の確率で返信を受け取っていたように思います。しかし、海外では30%程度しか返ってこない印象です。
私が勤務していた日本のIT 業界では「ボールはどこにあるか?」と言う、たとえを使います。会話をキャッチボールに例えた表現で、発言する順番をボールになぞらえています。自分から先方へメールを送ったら、次は相手が返信する、つまり、ボールを投げ返す番だという意味です。
海外企業では、何度ボールを投げても、なかなか受け取ってもらえません。海外では、回答を求める相手に対し、返事が得られるまで何度でも催促(プッシュ)する態度が求められます。重要な事項であるほど、メールを送った側が主導して、確認をとらなければなりません。
何回起こそうとしても起きなかった子供が、結局遅刻してしまい、「なんで起こしてくれなかったの!」と怒り出すと言うのはよくある話です。メールを見ない上司も、この様な子供だと思わないといけません。
メールに返信しないのは重要性が伝わっていないから
メールに返信をしないアメリカ人のメンタリティという記事で紹介されたように、「何度もプッシュされないということはきっと大事なことではないんだ」という考え方を持っている人は、世界では驚くほどたくさんいます。自分本位に優先順位をつけて、他人の依頼を軽んじてしまうのです。周囲の人間を大切にする「おもてなし」の心を持っている日本人にとっては、カルチャーショックを感じてしまうところでしょう。
返信が遅い人に対しては、物事が決まるまで、相手は話を聞いていない前提で何度でも話しかけなければなりません。私の場合、異なるチャネルを駆使して、何度も話しかける戦略を採用しています。メールが通じなければチャット、チャットがダメなら対面で連絡をとるようにします。
特に、ミーティングを設定する場合、相手から返事を待っていては、いつまでも決まらないので、上司とカレンダーを共有し、の開いている時間を見計らって、あらかじめミーティングを設定してしまう方法があります。既に打ち合わせを計画しましたと、事後報告をするのが一般的です。コミュニケーションのコストを減らし、仕事の効率化を進めるのにも役立ちます。
日本で仕事をしていると、返事をしないのは何らかの理由があるのではないかと考えてしまうかもしれません。しかし、たいていの場合、重要さを理解していないだけなので、相手が反応するまで、しつこく催促するのがカルチャーショックへの対応策です。
そもそもメールをしないで対面でコミュニケーションする方法もあります。例えば、1日に1回15分間、チームで集まって、状況を報告したり、問題点を共有したりする「デイリースクラム」という手法が有効です。日本でも朝礼を行っている会社もあると思います。短い時間で意味のある情報共有を行うには、工夫が必要なのです。
上司と部下の関係が対等であるほど、部下に指示を伝えるのが難しい
部下に指示を出す場合、日本の様に指示が伝わらないケースもよくあります。「非効率だからやりたくない」「他に仕事があり、優先順位が明確でないので、できない」などと言われてしまいます。上下関係がフラットな組織の場合、無条件に指示を聞いてくれるわけもありません。ビジョンを共有し、仕事を完遂するには、限られた労働時間で最大の成果を上げられるよう、部下を指導するのが上司の仕事です。
ここでは、2つの対応策を提案したいと思います。まず、なかなか話を聞いてくれなくても、最終的には分かってくれる人も多いと思います。顧客が待っているので優先順位が高いのだと、根気強く伝え続けると、徐々に優先順位を理解し、仕事を完了してくれるでしょう。
日本では当然の「報連相」も、海外では通用しません。仕事が終わったとしても報告はしてくれませんし、終わってなくても相談をしてくれません。部下の状況を能動的に把握するのは、上司の仕事です。
アイデアを植え付ける「インセプション」法の提案
2つ目の解決策として「アイデアを植え付ける」と言う手法を提案したいと思います。2010年公開の映画インセプション(出演:レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙)は、夢の中に入り込んで、ある思想を植え付けるという題材のものでした。私も、この手法を応用したいと考えたのです。
日本にも天邪鬼な人はいますが、海外ではさらに多くの人が一筋縄では指示に従ってくれません。「やってください」と言えば「できない」と言うし、「やらなくてよい」と言うと「やるべきだ」と反応する人がいます。この傾向を逆手にとり、部下の方から「やりたい」と言わせるのです。
具体的には、「こんなことをやれたら良いな」とメールの文末に密かに書いておくなど、ひっそりと主張しておきます。そうすると、忘れた頃に「それをやるべきだ」と部下の側から提案してくれます。海外の人の多くは、誰がいつした発言かという経緯を細かく気にしていないので、誰の意見だとか、手柄を取り合う必要もありません。考えを植え付けた方が、主体的に取り組んでくれるので、長い目で見ると効率が良いのです。部下の側からボトムアップで推進するので、組織を進むべき方向へとガイドできるのです。難易度の高いマネージメント手法ですが、組織と個人の方向性が合致した瞬間には、大きな喜びを感じます。
元日本代表の岡田武史監督も「教えるのではなく、気づかせる」指導を心がけていたといいます。「パスをしろ」という指導に加え、「いいドリブルだね」とボソッと言っておくと、選手は「ドリブルしてもいいのか」と気づくようになったそうです。インセプションの手法と通じる点があるのではないかと思いました。