働き方改革は、単なる残業削減のキャンペーンではなく、21世紀にあった仕事や人生の送り方を根本から定義しなおす施策です。TED動画で紹介された研究から、自分なりの働き方改革について考えてみると良いでしょう。
「長時間労働が日本をダメにする」小室淑恵氏が提案する、育児と介護の解決策
日本における働き方改革のきっかけとなった伝説のスピーチと言っても過言ではないでしょう。2012年にTEDx Tokyoで話されて以来、YouTubeでは37万回以上、再生されています。長時間労働を是正すると同時に企業の収益性を改善するコンサルティング事業での経験をもとに、労働環境の改善によって少子高齢化に起因した社会問題が解決に向かう可能性を示しています。本人のプライベートな経験から、統計データまで網羅しているので、模範的なプレゼンテーションとしても有名です。
小室氏の著書「労働時間革命 残業削減で業績向上! その仕組みが分かる」にも、長時間労働と社会問題の解決に関する議論が詳しく記載されています。
幸福と成功の意外な関係
「努力すれば成功できる、成功すれば幸せになれる」多くの人は、そんな幻想に悩まされています。努力したのに成功につながらなかったと、かえって失望してしまう人もいます。SNSで成功した人の投稿を見て、うまく行かない自分の現状にがっかりした経験はありませんか?問題にばかり目を向け、何かを成し遂げるまでは幸せになれないと考えるのは限界があるのです。
ハーバード大学で講師を務めるショーン・エイカーは、異なる成功の法則を提唱します。成功だから幸せなのではなく、幸せを感じるから成功に近づくのです。驚くべきことに、ポジティブな状態にある脳は、ネガティブな脳よりも31%生産性が高いとされます。プレゼンテーションでは具体的な生産性向上の方法も紹介されました。
働き方改革により、労働環境が改善し、幸せな状態で仕事に取り組めば、生産性が向上し、より大きな成果が得られるようになるかもしれません。ショーン・エイカーの理論は、2011年に邦訳されています。「幸福優位7つの法則 仕事も人生も充実させるハーバード式最新成功理論」
好きになる仕事はどうしたら見つかるのか
世の人々の8割は好きな仕事をしていないとされます。苦労の対価として労働をしているため、主体的・能動的に仕事に臨めず、ストレスをより強く感じてしまいます。時間を忘れて夢中になれる仕事、遊びと同じように楽しめる仕事、裁量を持って臨める仕事、いわゆる「天職」が見つかれば、幸せな職業人生が送れるでしょう。
好きな仕事を見つけるのは全ての人に課された難しい課題です。好きな仕事を見つけるきっかけとなるコミュニティ「Live your legend(自分の伝説を生きろ)」を立ち上げたスコット・ディンズモアは、団体参加者の共通点から、キャリア論を語っています。
世界を変えるようなユニークな活動を送っている人に共通するのは「自分を理解し、情熱を傾けるものを知っている」「自分が大切にしている価値や基準を理解している」「何が好き・嫌いか、得意・不得意かを自身の経験から学んでいる」という点だったとされます。
講義内では、自分の得意・不得意を見つける方法として「さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版 ストレングス・ファインダー2.0」が紹介されています。世界的なブームとなった手法なので、試してみるのも良いでしょう。
我々の仕事の考え方は間違っている
18世紀、産業革命の誕生に寄与した哲学者の一人アダム・スミスは、人間は本質的に怠惰であるため、給金というインセンティブを与えなければ生産システムは回らないと考えました。そして、「組み立てラインで働く者は、通常人間としてあり得る限り、愚かな者になる」と述べました。仕事の喜びを奪って単純作業を強いる仕組みこそが、当時の分業と大量生産システムを支える秘密だったのです。
21世紀の今、仕事のやり方は変わっているにも関わらず、仕事の考え方はほとんど変わっていません。「お金のため」以上の何かを仕事に見出すのが現在、あるべき姿です。私たちは、仕事に対してどのような思想を持つべきなのでしょうか?重要な問いを投げかけてくれるTEDプレゼンテーションです。
(ほぼ)ルールなしで会社を経営する方法
「奇跡の経営」とも呼ばれる型破りな手法で毎年40%もの業績向上を果たした、ブラジルのセムコ社CEOリカルド・セムラーの講演では、社員を「一人の大人」として信頼し、ワーク・ライフ・バランスを促進して、仕事の在り方に関する新しい考え方を示しています。
休暇は何日とってもいい、経費明細書のチェックはしない、どのオフィスに行っても良い、人事部はない、取締役会の2席は社員が参加できる。一週間の仕事が水曜日に終わったら、木金はビーチに行って、次の仕事は月曜に始めた方がいい。一見すると、驚きの制度でしょう。しかし、管理よりも自律、外発的動機(インセンティブ)よりも内発的動機(モチベーション)への転換という意味では、21世紀の新しい働き方に大きな示唆を与えてくれます。
リカルド・セムラーはセムコ社の経営の他に、財団を設立し、学校を運営しています。そして、経営手法を改革したように、教育改革にも乗り出しました。学生が「サークル」を作り、停学・退学を含めたルールを自主的に作成し、自律的な運営を行っているのは、セムコ社に共通する点です。「自己表現の仕方」「人間の器を測定する方法」といった講義を用意し、人生において重要なものを考えるきっかけを与えています。
ブラジルの革新的なリーダーの話なので、そのまま日本に持ってくるのは難しいかもしれません。しかし、本質を見失った硬直的なルールばかりで生産性を失った日本企業には見習うべき部分も多いと思います。リカルド・セムラーの経営手法は2006年に刊行された「奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ」で紹介されました。20分を超える長いTED動画ですが、強くおススメする一本です。
まとめ
TED動画の中には、働き方改革とは異なる文脈ではありながらも、興味深い講演がたくさんありました。別の機会でまた、紹介したいと思います。