起業や新規事業開発において、過去のアイデアや現在流行しているビジネスモデルを研究するのは重要です。実際、多くのビジネスモデルは既存のビジネスを踏まえて作られているものです。
私が遠くまで見通せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからです。
If I have seen further it is by standing on the shoulders of Giants.
優れた業績を称えられた科学者アイザック・ニュートンが手紙で返信した際に引用したとされる言葉です。優れたアイデアは、過去の優れたアイデアを発展させて生まれるという例と言えます。学術論文は通常、その冒頭で数十本の先行研究を記載しています。過去の研究を踏まえた上で、独自の視点や分析結果を積み上げて始めて、新たな知見が得られたと言えるからです。
Facebookは世界初のソーシャルメディアではない
Facebookは15億人以上とも言われる膨大なユーザーを抱え、現代の情報インフラとなっています。しかし、2004年にハーバード大学内でサービス開始したFacebookは、決して世界発のソーシャルメディアだったわけではありません。米国では1997年のSix Degrees、2002年のFriendster、2003年のMySpaceなど、実名プロフィールを作成し、友人と交流できるソーシャルネットワーキングサービスが開発されていました。特に、MySpaceは2008年当時7500万人以上の訪問者がおり、世界最大のSNSとして注目されています。さらに、2003年にはビジネス系SNSのLinkedIn、2006年にはTwitterと、現在でも盛んなソーシャルメディア企業が創業しています。日本でも2004年にGREE、mixiがサービス開始した時期です。
2000年前後にソーシャルメディアが次々に生まれたのは、市場がそれを求めていたからです。1990年代はチャットなどの1対1のコミュニケーションや匿名の掲示板が流行っていたものの、実名で交流するプラットフォームはありませんでした。友人と語り合ったり、近況を知りたいというニーズは普遍的なものであり、2000年頃に高速インターネットが普及したのと合わせて、ソーシャルメディアの隆盛は当然なものだったのでしょう。
結果的にはFacebookやLinkedInといった少数のソーシャルメディアが独占的な地位を占め、その他の競合企業はサービスを停止するか、別の業態へ変更するなどの末路を辿っています。日本でもFacebookやその後にLINEが流行したため、GREEやmixiは携帯ゲームなどへの戦略変更を余儀なくされています。
Facebookが独占的な地位を占められるようになったのは、様々な要素がありますが、創業者のマーク・ザッカーバーグが表面的に他のWebサービスを真似たのではなく、友人同士の「つながり」という本質的な部分を理解し、既存のアイデアを新たなステージへと進化させたから、成功につながったのでしょう。実際、Facebookをモデルにした映画「ソーシャルネットワーク」ではハーバード大学専用の出会い系サイトを制作した後に、学内限定のコミュニティサイトとしてFacebookを開発する様子が描かれています。出会い系サイトの真似事を続けるのではなく、人間関係と交流を軸としたプラットフォームへと昇華させたのが成功の鍵だったのです。
新規事業開発では先行者利益(ファースト・ムーバー・アドバンテージ)が過度に強調される場合がありますが、Facebookの例は必ずしも正しくないことを示しています。これまでに誰も実行していないビジネスモデルがあっても、単に市場が魅力的ではないだけで、成功の確率が高いとは言えません。むしろ、既存の市場に違った角度で製品・サービスを提供したり、現在の市場をわずかに拡大するようなアイデアの方が成功の確率が上がる場合があるのです。既存のアイデアを遥かに上回るビジネスモデルを提案し、後発者利益(ラスト・ムーバー・アドバンテージ)を得るのが賢いやり方なのだと言えるでしょう。
アイデアを「盗んで」自分のものにする
起業や新規事業開発には数多くのリスクがあります。製品・サービスにニーズはあるか、顧客に十分な購買力があり収益が得られるか、生産・物流の体制を確立できるか、事業が軌道に乗るまで資金は確保できるか。研究開発・マーケティング・営業・資金調達・経理・人材管理・オペレーションなど、全てのリスクに初めから対応できるはずもなく、事業を進めるうちに、少しずつ実証し、発展させていく手順が必要です。
ビジネスモデルを実証する際に、既に実証済みのアイデアがあれば、是非とも活用したいと考えるでしょう。研究開発型の企業であれば、類似の企業がどのようなマーケティング活動を行っているのかが参考になります。PCからモバイルへ軸足を移すのが流行であれば、先にモバイル化を実現したビジネスモデルが使えるでしょう。
事業のどの部分で独自性を主張し、どの部分でアイデアを「盗む」のかが起業家としての腕の見せ所と言えます。新規事業においては、資金も人材も不足しているので、根幹となるアイデア以外は大胆に他社のアイデアを「盗む」のが効率的なのでしょう。
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ
ドイツの宰相ビスマルクが語ったとされる言葉です。事業の全てに精通する起業家はいないので、自分が得意とする分野以外は、自分の経験の限界を見極め、他人の経験を多いに活用するのが望ましいと考えられます。