ビジネスモデルに含まれる基本的な2つの機能
自社のビジネスモデルを構築する場合でも、他社のビジネスモデルを分析する場合でも、事業運営の構造を理解しておくのは前提となります。経営学の祖ピーター・ドラッカーは「企業の目的が顧客の創造であることから、企業には2つの基本的な機能が存在することになる。すなわち、マーケティングとイノベーションである」と述べています。つまり、製品を作るプロセスと売るプロセスが両輪となり、それぞれが効果的に作用しながら、新規事業が生まれていくのです。
新規事業開発ではイノベーション、つまり、起業家のアイデアに基づいた新製品の開発が行われます。技術的な新しさに留まらず、これまで解決されていなかった社会問題への解法がイノベーションに含まれます。開発されたイノベーションを顧客へと届けるのがマーケティング活動です。
新規事業開発におけるマーケティング活動では、顧客の潜在的なニーズを掘り起こし、購買意欲をかきたてる施策を行います。結果として、肯定的・否定的なフィードバックが得られるでしょう。そのフィードバックから製品の改良を進め、さらなるイノベーションを起こしていく流れです。
ビジネスモデルを分析する際には、どのような製品を開発(イノベーション)し、どのように製品を市場に届けている(マーケティング)のか、という二つの軸が存在することを忘れないようにしましょう。
企業が存在する理由
ビジネスモデルは儲ける仕組みと言われますが、儲ければ何をしても良いというものでもありません。顧客に対して優れた価値を提供している企業は、継続的に収益を得られるのに対し、自社さえ良ければ構わないという企業は短期的には儲けることができても、長期的には問題を抱えるようになるでしょう。近江商人の「売り手良し、買い手良し、社会良し」とはよく言ったもので、持続的な成長を実現できる企業は関係する全ての人にとって利益をもたらすものです。
儲ける仕組みを使って事業を運営する理由を明確にするために「経営理念」が作られます。そのビジネスモデルの実行を通して、何を実現したいかという目的を明らかにするものです。経営理念は、一般的に、ビジョン・ミッション・バリューの3つから構成されます。
ビジョンとは「あるべき社会の状態」を宣言したものです。社会にはびこる問題を解決し、どのような生活を送れるようにしたいかを明確にします。自社に目を向けるのではなく、社会に対して提供する価値に注目するのが特徴です。例えば、Google のビジョンは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」と定義されます。製品や自社の利益といった議論を超えて、社会がどうなるかを明示した好例と言えるでしょう。強力なビジョンには多くの賛同者が集まります。先見性のある投資家や働く意義を求める高技能人材には、優れたビジョンの提示が欠かせません。
ミッションは「企業が果たすべき役割」を明らかにします。ビジョンがあるべき姿を語っているのに対し、ミッションではその企業がどのように貢献していくのかを語るのです。家具メーカのイケアでは「優れたデザインと機能性を兼ね備えたホームファニッシング製品を幅広く取り揃え、より多くの方々にご購入いただけるようできる限り手頃な価格でご提供すること」をビジネス理念として掲げています。顧客自身が組立てを行うため、削減した製造コストを安い価格へと転化できています。また、イケアは大量生産と新興国による製造によってコスト削減を大胆に推進するビジネスモデルが知られています。さらに、イケアが製造ではなく、デザインと機能性に特化した製品設計を行うため、価格が安くても洗練された製品が顧客からの支持を受けています。