ベンチャー企業にとって最大のリスクは、開発する製品が市場のニーズに合致しないこと
一般的に、規制対応はヘルスケア分野のベンチャー企業にとって障壁になると考えられています。規制要件を満たすため、新製品を開発するためのコストを大幅に増加させる可能性があり、また、規制当局が承認を出すまで製品リリースを待たなければならないリスクがあります。
私はヘルスケアAIベンチャー企業で、HIPAA、FDA Part 11、ISO13485(医療機器向け品質管理システム)などの規制対応に取り組んできました。この仕事を通じて、規制対応について別の印象を持つようになりました。規制対応は実際、製品開発を推進し、ベンチャー企業のリスクを軽減するのに役立つのです。
ベンチャー企業の最大のリスクとは何でしょうか?一つには、そのベンチャー企業が新しく生み出した製品が市場のニーズに合致しているかどうか、いわゆる「プロダクト・マーケット・フィット」にあります。新製品を発明するとき、問題が解決される価値があり、解決策に対してお金を払うのが受け入れられると考える潜在的な顧客が存在しなければなりません。さらに、顧客数と総売り上げが、ベンチャー企業を急激に成長させるのに十分な大きさに達する必要があります。
ベンチャー企業の構築においては、製品がまったく新しいため、そのユーザーあっても製品の仕様を定義することはできません。使い古された例え話を使うと、馬車のユーザーが欲しいのは速く走れる馬であり、自動車が欲しいと答える人はいないのです。
規制要件は市場のニーズを反映しているため、新製品を開発するための道しるべとなり得る
プロダクト・マーケット・フィットを見つけるための一般的な方法の1つは「リーン・アプローチ」です。このアプローチは、フィードバックを頻繁に得るために、小さな機能の塊で製品を開発する反復的プロセスです。顧客が必要としない機能に必要以上の時間とお金を投資するのを避けます。
リーン・アプローチがよく知られるようになった今でも、起業家はプロダクト・マーケット・フィットを見つけるのに苦労し、99%のベンチャー企業は失敗してします。起業家は誰かが新製品のための仕様を定義してくれたら、どんなに楽だろうかと考えるかもしれません。
そこで規制対応が有効になります。例えば、HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)は、データのプライバシーとセキュリティを提供するアメリカの規制です。顧客のデータを保護するために管理上、物理的および技術的な対策を義務付けています。もう1つの例は、電子記録および電子署名に関するFDA(米国食品医薬局) Title 21 Part 11です。製品のデータ保護や承認の手続きを定義する規制です。さらに、ISO標準、GDPR(EU一般データ保護規制)、EU-USプライバシー・シールドなど、ヘルスケア業界のベンチャー企業が準拠するべき、多くの規制や標準があります。
規制対応は保守的な顧客にアプローチするための最高のマーケティング手段
規制対応を行った後で顧客と話すと、その反応はとてもポジティブなものです。実績を重視する大企業は新しいベンチャー企業を信頼するのは難しい場合がありますが、そのような大企業でも規制は信頼しているので、規制がベンチャー企業と大企業をつなげる架け橋となるのです。そのため、規制対応は、ヘルスケア・ベンチャーにとって、最終的には、コストよりも多くの利益をもたらします。
カレンダーアプリ、デートアプリ、またはその他のサービスについて考えてみましょう。製品仕様に関するガイドラインはどこにもありません。起業家は、プロダクト・マーケット・フィットを見つけるまで、あらゆる仕様を試す必要があります。これがベンチャー企業が失敗に終わる大きなリスクとなるのです。
規制対応を製品開発の推進力と見なすという私の考えは、資金提供を受けたベンチャー企業にのみ適用されるのかもしれません。ベンチャー企業は規制当局の承認を待つためにある程度の時間とコストを必要とします。シード投資を受ける前のベンチャー企業は、規制当局からの承認を必要としない顧客を見つけなければならないでしょう。(参考)