プロダクトマネージャーは、その経験に応じて、ジュニアレベルからシニアレベルまで役職が設けられています。初めのうちは、機能の一部だけに責任を持っていたところから、徐々に製品全体、あるいは、複数の製品ポートフォリオを管理するようになっていきます。経営層ではCPO(チーフ・プロダクト・オフィサー。最高製品責任者)を設けている企業もあります。
情報科学やマーケットに関する知識がプロダクトマネージャーへ転身するのに役立つ
プロダクトマネジメントは、ユーザーや技術にまたがる様々な知識と経験が必要です。プロダクトマネージャーになるには、それに近い役割で経験を積み、ステップアップするというアプローチが現実的かもしれません。エンジニアとして要件定義から実装、テストまで全ての工程を経験した後に、ビジネス要件やシステム要件に力を注ぎ、プロダクトマネージャーへ転身するキャリアパスが考えられます。
新卒でプロダクトマネージャーに進むには、情報科学やそれに類する学位を取得した後、デジタル・サービスを開発する企業に就職するのを狙うことになるでしょう。また、既に起業を経験した人や、副業で自分のモバイルアプリやWebサービスを制作してきた人も、優れたプロダクトマネージャーの候補になり得ます。自分で製品を作るというのは、ユーザーについて思いをめぐらし、彼らが抱える課題を解決するプロダクトを生み出すというプロダクトマネジメントのプロセスに他ならないからです。
大企業においては、MBA取得後のキャリアパスとして、プロダクトマネージャーは一つの選択肢となります。MBAでは会社経営について浅く広く学ぶため、それぞれ異なる利害関係者と会話するのに役立ちます。また、指標の分析やビジネスケースを作成するのに、ビジネススキルが効果的です。
日本特有の状況として文系SEがあります。情報科学の学位を持っていないものの、システム開発の業務経験があるという人にとって、プロダクトマネージャーは魅力的なキャリアパスに映るかもしれません。プロダクトマネージャーはユーザーの体験や情緒的価値に思いを馳せ、それを製品のアイデアに落とし込みます。特有の業界で経験を積んできた人は、その業界においてビジネス寄りのプロダクトマネージャーとして活躍できるでしょう。
6段階のキャリアパス
プロダクトマネージャーのキャリアパスは企業や業界によって異なりますが、一般的には、その経験年数に合わせて、ジュニア・ミドル・シニア・ディレクター・バイスプレジデント・CPO(チーフ・プロダクト・オフィサー)といったレベル分けがなされます。それぞれ、役割や求められる要件が異なってきます。
ジュニア(アソシエイト)レベルのプロダクトマネージャー
初めてプロダクトマネジメントに携わる人が、その仕事の一部を担当し、より上位の役職者へ提案を行います。ユーザーの行動にまつわる指標を分析して、ユーザーのニーズを理解したり、小さな機能についてユーザー体験の定義を行ったりするのが、日常的な仕事となります。
ミドル(中級・主任)レベルのプロダクトマネージャー
他の役割で業務経験を積んだ人がプロダクトマネージャーに転身する場合には、ミドルレベルから始まるのが一般的です。一つの大きな機能について責任を持ち、開発のロードマップの作成などを行います。他のチームの人が、その機能について問い合わせを行う場合の窓口と考えればよいでしょう。開発・UX・マーケティングといった他部門と連携し、一つの製品を作りあげていきます。
シニアレベルのプロダクトマネージャー
プロダクトマネージャーとして複数年の経験を積めば、シニア・プロダクト・マネージャーとして認められるようになります。より若いプロダクトマネージャーに助言をし、複数の製品ラインの面倒を見ます。部門間の衝突を解決したり、深刻な問題が発生した際に対応したりするのが、課長級あるいはミドルレベルでの仕事です。
ディレクターレベルのプロダクトマネージャー
プロダクトマネジメントの実務から、組織運営に移るのが部長級・あるいはディレクターレベルです。より良い業務プロセスを定義・最適化し、組織全体として効率的な業務が行えるよう、働きかけます。プロダクトチームの雇用計画に責任を持ち、より広範な意思決定を行います。
バイス・プレジデントレベルのプロダクトマネージャー
プロダクトマネジメントに関する本部長、あるいは経営層の一人として、会社の運営に携わります。他の経営陣と調整し、予算を獲得し、プロダクト部門を守り、存在感を発揮できるよう働きかけます。企業を代表し、製品の専門家として社外へアピールする役割も担います。
CPO(チーフ・プロダクト・オフィサー。最高製品責任者)レベルのプロダクトマネージャー
大企業では経営層の一人としてプロダクトに責任を持つCPOを任命します。CPOは短期的な指標よりも、長期的な観点から、製品の未来を定義し、製品戦略や全体のロードマップ策定に責任を持ちます。一つの製品だけではなく、複数の製品をポートフォリオとして管理し、予算や資源を最適に配分できるよう努めます。
プロダクトマネージャーに関連するポジション
プロダクトマネージャーに近い役割ながら、より細分化されたポジションに進むキャリアパスが考えられます。例えば、ビジネス寄りのスキルや経験が豊富な人であれば、プロダクトマーケティングマネージャーに進むことが可能です。製品・サービスを市場に出す活動や、市場からニーズを抽出することに焦点を当てたポジションです。関連して、見込み顧客やパートナー企業を含めたコミュニティに対し、自社が提供する技術を広く知らしめるエバンジェリストを設けている会社もあります。
また、技術面に強い人材は、テクニカルプロダクトマネージャーというポジションに進む方法が考えられます。技術的に複雑な製品・サービスを扱う企業でよく見られるポジションであり、開発チームと頻繁に協業するケースが見られます。さらに、開発チーム側に転籍して、テクニカルーリードやアーキテクトとしてのキャリアを進む人もいます。
財務面の指標を管理するプロダクトマネージャーの役割を考慮すると、より経営戦略に近い役割へ進む可能性もあります。事業責任者やチーフ・イノベーション・オフィサーさらにはCEOといった方向性へ進むキャリアもあります。
興味深いのは、自ら企業するプロダクトマネージャーもいる点です。自分のアイデアで製品・サービスを生み出し、成長させる経験を積むと、独立して、そのアイデアを試したいと考えるのも頷けます。顧客のニーズを抽出して製品・サービスへ反映させるというプロダクトマネージャーとしての経験は、スタートアップを立ち上げるのにも共通する部分があるのでしょう。
プロダクトマネージャーに求められるスキル
プロダクトマネージャーに求められるスキルは、その分野横断的な役割から、非常に多岐にわたります。技術・ビジネスはもちろん、ソフトスキルについても高いレベルが必要とされます。
まず、技術的な面については基礎的な事項を理解できている必要があります。必ずしも自身がプログラミングするわけではありませんが、何ができて、何ができないのかが分からないと、要件定義が困難になります。加えて、開発チームと協業する際に、共通認識を持って会話できないのは問題になるかもしれません。基礎的なアイデアや、自社の製品・サービスに関する知識は欠かせません。特に、ユーザー視点の設計を担当する場合があるプロダクトマネージャーは、ユーザー中心設計(UCD)やUX/UI(ユーザーエクスペリエンス、ユーザーインターフェース)に関する知識・経験があると望ましいとされます。
次に、ビジネス面についてもプロダクトマネージャーは、広範な知識が必要です。例えば、市場分析・競合分析ができなければ、どのような機能が顧客に求められているのか、投資に見合った売り上げが得られるほど市場規模は大きいか、といった質問に対し、プロダクトマネージャーは答えられるようにしなければなりません。ビジネス面の情報を分析し、長期的な成功をもたらすよう、戦略的な思考力が求められます。また、売り上げの予測や、価格戦略の策定、コストの分析といった基礎的な財務面の分析についても秀でているプロダクトマネージャーは高い評価を受けるでしょう。
異なる立場のチームをまとめて、製品開発を成功に導くプロダクトマネージャーには、特に、コミュニケーション能力やリーダーシップが必要とされます。自身の意見を適切に伝えられるプレゼンテーション能力や、顧客あるいは利害関係者の意見を聞き取るインタビュースキルといった技術も含まれます。交渉力やプロジェクトマネジメントスキルもあるのが望ましいと考えられます。
様々な利害関係者が携わる中、優先順位をつけて意思決定するのは、相応の経験が求められます。短期的な収益と長期的な繁栄、あるいは、収益につながりにくいセキュリティやプライバシー対応をどう進めるか、といった複雑な問題にプロダクトマネージャーは直面します。その際に、近視眼的にならず、多面的に考えた上で、倫理的な判断も考慮しながら、チームを正しい方向に導く態度が必要です。
プロダクトマネージャーのスキルを身につけるには
これまで見たようにプロダクトマネージャーのスキルは極めて実践的なので、実務を通してスキルを習得するのが望ましいと考えられます。自社でプロダクトマネージャーのポジションが設けられている場合は、そのキャリアに進めるよう、上長とコミュニケーションしてみるのが良いでしょう。その際には、自分がこれまでに得た経験がどのようにプロダクトマネージャーのポジションで活用できるか、これからどのようにして組織へ貢献できるのかをアピールする必要があります。
すぐにはプロダクトマネージャーのポジションにつけなくても、現在のポジションで、その力を発揮できないか考えてみても良いでしょう。例えば、現在、SEとして働いているのであれば、要件定義を含めた上流工程に力を入れるようにすれば、プロダクトマネージャーに求められるスキルが身に付きます。マーケティング側で働いている人は、より技術的な議論に参加し、プロダクトマーケティングマネージャーと重なる領域を担当できないか考えてみましょう。
自社内にプロダクトマネージャーがいる場合は、その人と交流してみて、メンターとしてアドバイスを受けられないか検討します。その人がどのようにしてスキルを身につけたのか、そのポジションに就いたのかといった情報が得られれば、自身のキャリアパスにも大きな影響があります。
社内での可能性が少ない場合は、副業・兼業で機会をうかがってはどうでしょうか。市場調査やUXデザインといった要素技術については、副業人材を求めている企業も多いでしょう。また、自らがプロダクトマネージャーとして、興味のある分野で製品・サービスを実際に作ってみるという方法もあります。自らの責任において、要件定義からリリース、そして運用まで担当するのはプロダクトマネージャーとして欠かせない経験です。他にも、ボランティアやプロボノ、コンサルタントとしてプロダクトマネージャーのスキルを身につける方法もあります。
プロダクトマネージャーの基礎的な知識を身につけるには書籍やオンラインセミナーなどが利用可能です。筆者もCourseraやUdemyといったオンラインプラットフォームで公開されているプロダクトマネージャー向けの研修講座を受講した経験があります。海外で活躍しているプロダクトマネージャー経験者の生の声が聴ける良い機会なので、有効に活用することが推奨されます。
プロダクトマネージャーのキャリアについて解説された書籍を紹介します。
エンジニアからプロダクトマネージャーへのキャリアチェンジ
もし、現在SEやプログラマーとして勤務しているとして、プロダクトマネージャーのキャリアパスを検討しているとしたら何から始めたら良いのでしょうか。まず、前述したようにプロダクトマネージャーに求められるスキルを洗い出すのが推奨されます。そして、自分が現在持っているスキルや過去の経験から、何が不足しているのか、あるいは、何が活用・転用できるのかを検討します。そうすれば、プロダクトマネージャーになるために学ぶべきことや、アクションプランが明らかになります。足りないスキルだけではなく、ネットワーキングの面からも検討してみると良いでしょう。すでにプロダクトマネージャーとして働いている人を知らないのであれば、社内の先輩や、社外コミュニティから話を聞ける人がいないか検討します。
プロダクトマネージャーとして働くには、社内でそのような機会がないか調査する必要があります。一方、自分が副業・兼業でできないかといった選択肢も含めて考えてみるべきです。もし、社内でチャンスがなければ転職を視野に入れることになります。
転職と同時にポジションを変えるのは、一般的に、難易度が高いとされます。多くの企業は、中途採用の場合、経験者を欲しがる傾向にあるからです。そのため、プロダクトマネージャーとしての経験が少ない場合は、可能だとはいえ、十分な準備が必要です。具体的には、履歴書や職務経歴書をプロダクトマネージャー向けにカスタマイズして更新する、オンラインの転職プラットフォームに登録する、考えられる転職先について調査する、といった打ち手が考えられます。また、面接に進めた場合は、どのようなスキルを活用していきたいか、プロダクトマネージャーとしてどのように転職先へ貢献できるか、といった想定される質問に、口頭でどのように答えるかを準備するようにしましょう。
プロダクトマネージャーは、何か資格があればなれるという類のものではないので、実務で経験を積んでいくのが最も重要です。一朝一夕では身につかないため、焦らず、継続的に反復的な学習を進めていくようにする必要があります。
本章ではエンジニアからの転職について、キャリアチェンジの方法を解説しました。他のポジションであっても、共通する点はあります。マーケティング側で働いていたとしても、ギャップのあるスキルを明確にして、それを埋めるアクションをとるというのは同様です。自分のスキルや、自社のやり方に合わせて、キャリアチェンジの方法を考えてみてください。
プロダクトマネージャーの将来性
技術やビジネス動向が変化し続ける中、プロダクトマネージャーの重要性は、まずます高くなっていくと考えられます。市場のニーズや、自社の経営目標、技術的な実現可能性などを考慮し、製品・サービスの開発をリードしてくれる人材は欠かせません。素早く変化する市場のニーズに対応できるよう、アジャイル開発に近い考え方を推進する企業が増える中、プロダクトマネージャーは貴重な人材です。
これまではベンダーに依頼して数か月・数年かけてシステム開発を行ってきたという企業では、運用フェーズで柔軟に機能開発できなくなり、ユーザーのニーズから離れてしまうという可能性があります。これから必要になるのは、限られた期間のプロジェクトを円滑に進める「プロジェクトマネージャー」よりも、リリースした製品・サービスが永続できるよう、継続して開発・運用していく「プロダクトマネージャー」が求められているのではないでしょうか。
企業の中でプロダクトマネージャーの不在が問題となるケースが見受けられます。新しいアプリをリリースしたものの、セキュリティ上の問題が露見し、すぐにアプリが閉鎖される、といった場合でも、プロダクトマネジメントのレベルが向上すれば、このようなリスクが軽減できたかもしれません。より製品・サービスの開発サイクルが短縮化される中でも、優先順位をつけて開発を進められるかどうかは、プロジェクトマネージャーの力量にかかっています。
近年は、人工知能技術の発達により、開発が効率化されています。ノーコード・ローコードツールが豊富になり、また、ChatGPTのような生成系AIがコードを作成してくれる例もあります。システムを開発する方法は高度化されていますが、「何を作るか」という領域については、まだ、プロダクトマネージャーが必要です。AIで自動化が進んだ時代であっても、ビジネスの方向性を決めるのは人間の役割と言えます。むしろプロダクトマネジメントの仕事にAIを活用して、どう効率化を図るかが重要になってきます。
まとめ
プロダクトマネージャーのキャリアパスは、小さな機能の開発から、製品全体の開発へ責任を持つように進んでいきます。経営層に近づくほどに、会社全体の製品戦略を管理し、予算や資源の配分に関心を持ちます。開発側の経験を積んだ人にも、ビジネス側の経験を積んだ人にとっても、プロダクト開発のロードマップに責任を持てるのは、興味深いキャリアパスなのではないでしょうか。
Eラーニング
テクノロジーの聖地シリコンバレーからPMの仕事や魅力とキャリアの可能性を、在住13年以上、現在米系スタートアップで働く現役Principal Product Managerが具体的事例をもとに紐解きます。