一口に起業と言っても、許容するリスクや目標とするリターンの規模によって採用するべきビジネスモデルが変わってきます。どれが良い悪いという議論ではなく、自身のスキル・人生設計・経済状況に応じて、最適な戦略を採るのが望ましいとされます。
個人事業主(フリーランス)
事業の不確実性を極力排除して生計を立てていくには個人事業主や士業として仕事の依頼を受けていく戦略が望ましいと言えます。この場合、依頼主の仕事を請け負うというビジネスモデルが明確です。
小規模企業(スモールビジネス)
八百屋、パン屋、美容院、ヨガ教室、コンビニエンスストアのフランチャイズ、営業代理店などは小規模企業に該当します。規模を拡大したコンサルティング会社もスモールビジネスと言えるでしょう。提供する製品・サービス、あるいは対象とする市場などに工夫の余地があり、ある程度再現性があるとは言え、ビジネスモデルの検証が必要です。
個人事業主よりは大きな収益を上げる可能性がありますが、拡張性に限界があり、従業員の数や稼働時間に比例して売り上げが増加するのが特徴です。例えば、コンビニエンスストアであれば店舗の床面積と売り上げが、コンサルティング会社であればコンサルタントの稼働時間が売り上げを左右します。
ベンチャー企業
新たなビジネスモデルを考案し、数年という短い期間で急激な成長を実現し、株式市場への上場や大手企業への事業売却を狙うのがベンチャー企業です。数億人のユーザーを獲得するなど、幅広い市場へ横展開できる拡張性を持ったビジネスモデルが欠かせません。銀行からの借り入れが主となる小規模企業とは異なり、ベンチャーキャピタルなどからの投資がベンチャー企業の資金調達の手段になるのが一般的です。
他社のビジネスモデルを参考にして事業を立ち上げる手法を極端に推し進めているのがドイツのロケットインターネットという会社です。米国シリコンバレーで流行しているビジネスモデルをコピーして、ヨーロッパやアジア諸国で同様の事業を立ち上げて急拡大を続けてきました。MBA卒業生や大手コンサルティングファーム出身の若手を雇い、CEOとして送り込みます。工業的な手法で、事業の立ち上げから撤退の判断まで極めて速いのが特徴です。2007年の創業から110か国、3万人の従業員を抱えるまでに急成長したのは、ビジネスモデルを真似る手法の有効性を示しています。
一方で、ビジネスモデルの真似に徹するあまり、世界を進歩させる、価値ある事業を生み出せなくなっているのではないか、との批判があるのも事実です。Paypal創業チームのピーター・ティールは著書「ゼロ・トゥ・ワン」の中で、既存のビジネスモデルから離れ、独占的な地位を築く戦略を推奨しています。同じくPaypal創業に関わったイーロン・マスクは真似ではなく、全く異なる事業を目指す起業家の代表例です。スペースシャトルを開発するなど、これまで存在しなかった製品に大規模な投資をかける事業が目立ちます。
ただし、ピーター・ティールやイーロン・マスクの主張は、彼らの立場を踏まえて理解しなければならないでしょう。投資家であるピーター・ティールは、小規模なリターンをもたらすベンチャー企業が何社あるよりも、その数万倍の投資収益をもたらすベンチャー企業を求めています。そのような投資家が、起業家により大きなリスクを求めるのは当然でしょう。イーロン・マスクにしても、リスクを取れるだけの能力・実績・人脈・経済力があるからこそ、大きなリスクに挑めるものです。
初めて事業を立ち上げる起業家や、予算の限られた社内新規事業の場合、イーロン・マスクのような野心的な挑戦を行うのは困難でしょう。その場合、既存のビジネスモデルを研究した上で、独自のアイデアは差別化を追求し、それ以外の部分は冷静に他社のアイデアを参考にする態度が望ましいと考えられます。