リーンスタートアップとは何か
既存の事業と自分のアイデアを重ねることで新たな事業を構想し、ビジネスモデル・キャンバスでその構造を考えると、新規事業に対する「仮説」が出来上がります。どんなに深く考えたとしても、まだ検証されていないビジネスモデルは仮説に過ぎず、成功するかどうかは分かりません。ビジネスモデルの各要素を検証し、プロダクト・マーケット・フィットを高める作業が欠かせません。また、既存のビジネスモデルを参考にすることで、検証作業を部分的に簡略化できるメリットがあります。
ビジネスモデルを検証しながら、事業を構築していく方法として「リーン・スタートアップ」という手法が提案されています。リーンとは「無駄がない」という意味で、不要な作業を行わず、重要な作業に注目して、効率を最大化させようという思想が表れています。トヨタ生産方式は徹底して無駄を排除したプロセスが有名ですが、この生産方式を参考に、無駄のない事業構築の方法が提案されたようです。
リーンスタートアップが提案される以前の新規事業構築の方法は、大規模工場を使った機械製大量生産式のビジネスモデルに近いものがありました。まず、新しい商品アイデアがあれば、多額の資金を調達し、生産システムを構築。そして、広範囲の販売網を通して、商品を売っていきます。成功すれば、その利益が大きなものになりますが、失敗した場合の損失も大きくなってしまいます。ハイリスク・ハイリターン型の新規事業構築と言えるでしょう。
情報系のビジネスモデルでは、このようなハイリスク・ハイリターンの手法にこだわる必要はありません。工場で生産とは異なり、プログラムによって実装されたシステムは変更が比較的容易だからです。業界や技術動向の変化が激しく、消費者の好みが素早く変化する現代では、新規事業の準備をしている内に、その新商品に対するニーズがなくなってしまったり、競合他社が市場を支配してしまったりするケースもあります。素早く、柔軟にビジネスモデルをニーズに適合させる取り組みが求められています。
リーンスタートアップが求められる背景
ソフトウェアやサービスが重要な役割を占める昨今のビジネスモデルでは、旧来のビジネスモデルに比べ、体験してみないと分からないという点が大きく異なります。新しいパソコンが発売された場合、CPUの性能やハードディスクの容量といった製品仕様を見れば、何ができるのかを理解するのは容易です。しかし、Instagramがアップデートされて新機能が導入されたと聞いても、その価値を理解するのは、しばらく使ってみてからでしょう。言葉で説明されても、いまいち理解できない場合が多いものです。
情報システム構築においてコストや納期が大幅に超過し、プロジェクトが失敗に終わるケースは少なくありません。例えば、みずほ銀行の情報システムはピラミッド構築並の膨大な工数を投入しながらも、業務を正常に運用できるものが開発できませんでした。情報システムの開発では、実際にモノを体験するまで完成予想図が想像しにくいため、発注する側も、どのような要件を設け、開発者に伝えればよいのかが分からないものです。システムができてから、「こんなはずじゃなかった」「思っていたのと違う」「以前より使いにくくなったので、元に戻してほしい」といった非生産的な手続きを踏んでしまう問題が多発しています。