アマゾンの市場を独占していく戦略は書籍から家電、ITインフラ、生鮮食品、医薬品など拡大の一途
アマゾンでは数多の商品が扱われています。家にいながら何でも買い物ができる便利さは、生活の多くの部分を占めるようになりました。アマゾンが牽引してきたEコマース業界は、21世紀を代表するビジネスモデルになっています。
リアル店舗では、売り場面積や倉庫に限りがあったため、売れ行き商品に偏った品揃えにする必要がありました。Eコマースであれば、商品の種類に限りはなく、ほぼ無限に商品を揃えられるのがメリットです。この特徴は「ロングテール」と呼ばれ、売れ行きが少ないけれど膨大な商品カテゴリから、無視できないほどの利益を獲得できるようになりました。
アマゾンの戦略は市場を独占していく点に特徴があります。本の販売で始まった同社は、家電製品や衣料等、あらゆる商品の小売り業界を席捲しています。また、アマゾンのITインフラは、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)として展開され、クラウドサービスという分野を生み、さらにアマゾンの大きな収益源となっています。
アマゾンの領域は拡大の一途を辿っています。スマートスピーカーのAlexaや、ボタン一つで注文できるアマゾン・ダッシュで、自宅からの注文を簡素化しようとしています。また、レジ無し店舗アマゾンGoはリアル店舗の在り方を変えてしまいます。米国高級スーパー・ホールフーズの買収はリアルとネットの融合を象徴する存在として注目されています。その他にも、生鮮食品、医薬品、動画配信を始め、多くの業界に影響を及ぼしています。
アマゾンに致命的な影響を受ける企業を「デス・バイ・アマゾン」として選定
アマゾンは少ないコストで高い利便性を提供できるよう、顧客価値の最大化に努めています。一見、利益を度外視したようなやり方で市場を独占し、シェアを獲得した上で、長期的な成長につなげるのがアマゾンの特徴です。アマゾンは小売りやAWSで上げた利益を、驚くべきほど再投資にまわし、新規事業の創出にかけています。
アマゾンは独占的な地位を占めてしまうため、競合他社は致命的な打撃を受ける現象が続いています。例えば、アマゾンで本を買うのが当然になった消費者は、書店に向かわなくなってしまうため、書店を縮小させてしまうのです。アマゾンによって、戦略の転換や倒産に追い込まれてしまう場合さえあります。
アマゾンによって致命的な影響を受ける現象は「デス・バイ・アマゾン(アマゾンによる死)」と呼ばれるようになりました。文字通り、営業が続けられない程に窮地に追い込まれる企業が相次いでいます。
この現象を分析するため、Bespoke投資グループは「デス・バイ・アマゾン指数」を選定しています。小売り業界を中心に54銘柄を選定し、その株価の推移を追跡調査したものです。具体的にはコストコや米ターゲットが含まれています。2012年から2018年の間、アマゾンの株価は560%上昇、米国の代表的な株価指数であるS&Pは102%上昇したのに対し、デス・バイ・アマゾン指数に選定された企業は、42.8%の上昇に留まりました。
アマゾンの成長はまだまだ終わりではありません。ヘルスケアや医薬品、リアル店舗との融合のように、成長の余地は残っています。
デス・バイ・アマゾンは、現代的な顧客サービスの不足が引き金となる
アマゾンの競合も、その対抗策をとっています。例えば、ウォルマートは積極的な買収や、ネットとリアルの融合といった戦略により、巻き返しを図ってきました。前述のBespoke社は、デス・バイ・アマゾン指数とは逆に、アマゾン・サバイバー(アマゾンからの生き残り)指数も分析し始めています。
アマゾン・サバイバーは、小売り業界の中でもアマゾンに対抗して事業を展開するEコマース企業を選定したものです。2016年から2018年の分析では、アマゾン・サバイバーは顕著にデス・バイ・アマゾン指数を上回っています。アマゾン・サバイバーに含まれるのは、ホーム・デポ、アバクロンビー&フィッチ、GAPといった特定の業界に強い企業が選定されています。
「アマゾンが小売り業界をつぶすのではない。まずいカスタマーサービスによって小売り業界自体が滅んでいくのだ。」(参考:Amazon did not kill the retail industry)
デス・バイ・アマゾンという言葉は、アマゾンの影響で企業が影響を受けることを前提としていますが、見方によっては、アマゾン云々ではなく、時代に合わなくなった企業が淘汰されているだけなのかもしれません。
スマートフォンを手にした消費者は、いつでもどこでも、欲しいと思ったときに最適な値段・サービスでモノを買いたいと思っています。多くの店舗は在庫切れを起こしていたり、同じ商品でも他社よりも高い値段で売っていたりして、価格比較サイト等で十分な情報を持っている消費者を満足できなくなっています。
実際、リアル店舗を潰してきたように見えるアマゾンは、自社の手でリアル店舗を復活させようとしています。レジ無し店舗アマゾンGoや買収したホールフーズのように最新技術、現代的なサービスが適用されるようになりました。つまり、デス・バイ・アマゾンと、アマゾン・サバイバーを分ける鍵となるのは、徹底した顧客目線なのです。
今後アマゾンの影響を受けるであろう業界は、現代の顧客に合わせたサービスになっているか考えておく必要があります。医薬品業界であれば、医師と対面でなければ医薬品が購入できないといった規制が、オンラインでの対面が容易になった現代にそぐわなくなってきました。また、わざわざ店舗に出向いて高い延滞料金をとられるリスクのあるレンタルビデオ店よりも、いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービスが選ばれるのは当然です。
書店がアマゾンに勝る価値とは何でしょうか?アマゾンは豊富な点数と推薦システムに優れていますが、自分で検索しなければ好みの本には出会えません。書店では、書籍との偶然な出会い、書店員による個性ある推薦、書店で過ごす時間やその体験といったものが提供できます。デス・バイ・アマゾンを打ち破るには、顧客価値の現代化が欠かせないのです。
まとめ
デス・バイ・アマゾンとは、アマゾンの独占的な事業開発戦略によって、競合企業が倒産や縮小に追い込まれてしまう現象です。ニッチな分野で顧客目線を貫いている企業は、アマゾンの影響に負けず、巻き返しも見られています。アマゾンとの勝敗を左右するのは、現代のユーザーの要求に応じて技術・サービスを更新していく施策なのです。
デス・バイ・アマゾンについては以下の書籍に詳しい記載があります。
デス・バイ・アマゾンは、同社の動向を解説した上で、アマゾンに対抗するウォルマートやコストコ、ユニクロの競争戦略を振り返っています。特に、リアル店舗の技術革新、ボイスコマースで急速に変化するオムニチャネル、「宅配クライシス」でますます激化するラストマイルの争い、「プライム」とそれに対抗するサブスクリプションサービスが特集されています。