堀江貴文氏は、毎年多くの書籍を出版し、メディアでの露出も盛んです。どこに時間があるのだろうと思うほど、複数の事業を同時に手掛け、また、本を通して、先進的なビジョンを発信しています。その著書の中からは、教育事業や健康事業といった彼の仕事の背景にある考え方が垣間見えます。やはり切れ味鋭い指摘は、多くの人を魅了しています。
本人はアイデアを出しているだけでゴーストライターが書いているだけだとか、既出の情報を本にしてまとめているだけだとか批判も聞こえてきますが、書籍として編集された形で、そのコンセプトに触れると、また、違った印象を受けるのではないでしょうか。
多動力
堀江貴文氏が提唱する多動力は、新たなコンセプトであり、多くの人にとって初めて聞く言葉でしょう。本書では、複数のキャリアを同時に進行させ、異なるスキルの組み合わせによって、ユニークな存在になることが推奨されます。実際、堀江氏は「実業家、ロケット開発者、予防医療普及協会、Jリーグアドバイザー、映画プロデューサー、服役経験者」など、様々な肩書を持っています。現在は副業・兼業が推進される流れがあり、このようなパラレルキャリアが求められるようになった時代背景を堀江流で解説しています。
私が卒業したMBAコースの後輩と話していると、MBAは毎年、カリキュラムが変わり、従来のコンサルティングや金融から、起業や新規事業へと舵を切っていると聞きます。知識がコモディティとなり、多くの知的資源がオープンソースとして無料で提供される今、最も付加価値が高いのは、複数の領域を組み合わせて新しい事業を興せる人材なのではないでしょうか。世界を見ていると、博士号や医師免許を持ちながらMBAを取得している人もザラにいます。十何にキャリアを構築していく態度が求められているのです。
10年後の仕事図鑑
キャリア論について積極的に発信する堀江貴文氏が、今最も注目されている研究者、落合陽一氏と共著したのが本書です。人工知能が普及する未来において、なくなる仕事と生まれる仕事について、二人が意見を交換しています。好きという感情に向かい、没頭し、自分が持っている価値を形にするというメッセージがこめられています。未来志向でポジティブでありながら、実行するにはとても難しい宿題が与えられたように感じました。
仕事と遊びの境目がなくなる「ワーク・アズ・ライフ」の時代が近づいているのかもしれません。これまでは、そのような考えをもっていたのは、ほんの一握りのクリエイターや天才に限られていたように思います。タモリさんが、趣味の時間に「真剣にやれよ!仕事じゃねぇんだぞ!」と言い、仕事中には「やる気のあるものは去れ」と発言したという逸話を聞いたことがあります。多動力とも関連してきますが、常に複数の視点を持ち、没入感とクリエイティブさを忘れないようにするスキルが必要になってきているように思います。
すべての教育は「洗脳」である~21世紀の脱・学校論~
堀江貴文氏は学校教育を再構築するという理念のもと、座学よりも行動できる人材育成を目指す高校「ゼロ高等学院」を設立しています。現在の教育制度が実社会とマッチしていない部分に問題意識を持ち、実際の教育機関によって、社会へインパクトを与える取り組みです。この背景にあるアイデアは「すべての教育は「洗脳」である」から感じ取れます。
衝撃的なタイトルではありますが、内容は理にかなっています。現在の教育制度は「大量生産を目的とする工場で労働して報酬をもらう」働き方を前提としているため、知識を身に付け、ルールを守ることが優先されます。インターネットが普及し、意欲さえあれば、自分でなんでも学習し、行動するほど新たな経験を得られる今、座学よりも行動こそが学習を促進させるのです。
2005年にYコンビネーター創業者ポール・グレアムが書いた「ハッカーと画家」にも、教育制度の限界について書かれていたのを思い出します。既存のルールに従わず、新しいアルゴリズムを発明するプログラマーは現行の教育制度にマッチしません。それは既存の手法からはみだし、新たな分野を切り開く芸術家のようでもあります。ポール・グレアムの他にも、教育は創造性を妨げるという指摘はありますが、堀江貴文氏のように高校設立にまで乗り出した例はあまり聞きません。まさに本人自身が多動力を発揮している例と言えるでしょう。
健康の結論
意外に思われるかもしれませんが、健康は堀江貴文氏の活動でも目立っているものの一つであり、実際、予防医療普及協会として、がん予防のプロジェクトを実施しています。生産性を維持するには、健康であることが前提です。「長時間勤労」よりも「長期間労働」という意識のシフトを推奨しています。
私も人生に余裕がないときは、健康を疎かにしていました。若いころは体を壊すまで働いていたし、収入がないときは保険も検診も避けていたものです。健康に気を配れるというのは、それだけでも生活の基盤がしっかりしている表れだと思います。まず、健康の優先順位を上げるよう生き方を見直す、そして、同書が推奨するよう、予防手段を講じて、生活の質を上げていきたいものです。
ゼロ―なにもない自分に小さなイチを足していく
堀江貴文氏の生い立ちから、起業、買収、そして逮捕までを振り返る一冊であり、そのメインテーマは「働く」ことです。同氏のキャリア観の原点が垣間見える本書は、2013年出版ながら、いまだに堀江貴文著作の売れ筋ランキングに入るほどの人気があります。誰でも始めはゼロであり、失敗してもゼロに戻るだけ。掛け算する早道はなく、地道にイチを足していくだけ。その波瀾万丈な人生から来る言葉には凄みが感じられます。
堀江氏はもちろん、ZOZOの前澤社長もソフトバンクの孫正義氏も、みんな始めは何者でもなかったのです。現在活躍している人を見ると、特別な存在に思えるかもしれませんが、一般の我々がするべきなのは、彼らをねたみ見るのではなく、自分にイチを足していく毎日です。最も残酷な結論かもしれませんが、一発逆転する早道はないのです。
まとめ
堀江貴文氏の書籍は、キャリア論を中心に、未来へと示唆にとむ内容があふれています。また、教育や健康といった本人が手掛ける事業の背景となる考え方を知る機会もあり、これからの社会の動向について学ぶことができます。毎年、数冊、積極的に出版するホリエモンの活動が、引き続き楽しみです。
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