Pfizerの積極買収は製薬企業の”投資銀行化”を進めるのか

※当サイトではアフィリエイト広告を利用しています。

ビジネスモデル解説

米大手製薬会社のPfizer(ファイザー)が、ガン治療薬を開発するMedivationを140億ドルの買収に合意間近であると報じられました。Pfizerは近年、製薬会社の買収に極めて積極的で、その様子はもはや投資銀行やベンチャーキャピタルのようでもあります。Pfizerと同様、製薬業界のM&A市場全体が大きく成長しているのは、どうしてでしょうか。

 

巨額買収の業界最高記録を持つPfizer

ガンの治療薬は製薬業界でも大きな割合を占めています。世界全体で毎年800億円の売り上げがあり、年間で10%の成長があるとの調査も報告されました。Medivationはガン治療薬を開発する数少ない独立系製薬会社で、既に年間20億円の売り上げを叩き出すまでに成長した新興企業です。Pfizerは、この”ヒット作”を手に入れるために、140億ドルもの巨額な買収を実現させました。

 

Pfizerは、これまでにも巨額の買収を繰り返し、会社を成長させてきた歴史があります。製薬業界で見られた買収で最も高額な買収を行ったWarner-Lambertの900億ドル(1999年)があり、他にはWyethの680億ドル(2009年)、そしてPharmaciaの643億ドル(2002年)が大型買収の例として挙げられます。2015年にはHospiraの161億ドルの案件もありました。さらに、税制の関係で中止になったものの、Allerganを買収していれば1600億ドルに上る最大規模の買収が行われた可能性もあったほどです。

 

「ブロックバスター」モデルにおいてはM&A戦略が効率的

買収戦略を推進するのはPfizerだけではなく、その他の大手製薬会社も同様です。2015年、ヘルスケア業界全体で7240億円の買収が行われ、これは前年比66%増になります。全ての業界を足し合わせた場合、ヘルスケア業界は全体の1/5に達する程です。

 

製薬業界が買収に頼る背景には、その「ブロックバスター戦略」があります。映画業界などでも見られるように、1本の大ヒット作がほとんどの収益をもたらし、一方で、ほとんど収益をもたらさないプロジェクトが無数に存在する構造です。そのため、製薬業界のR&D活動は、数多くの試行をし、上手くいったものから収益を得るという高リスク・高リターンの方向性に向きがちです。

高リスクの事業の場合、全ての研究開発活動を自社で賄うよりも、基礎研究は他社に任せておいて、芽が出たものを刈り取る買収戦略を取った方が効率が良い場合があります。このように、自社内で閉じずに、他社との協働で新たな製品を開発する方向性は「オープン・イノベーション」として知られています。オープンイノベーションの促進により、製薬会社はリスクを抑えながら、効能の高い新薬の販売・広告宣伝に注力できるようになるのです。

 

9割の臨床試験が失敗する中、研究開発を続ける意味はあるか

製薬企業が新薬開発に要するコストは想像を上回るものがあります。一つの新薬が世に出るまでには、平均して25億ドルかかるとも言われるからです。これだけのコストをかけても年間10億ドルを売り上げる程、効能の高いヒット作「ブロックバスター」が現れる確率は非常に低いと言われます。この現状を考えると、自社で開発を手掛けるよりも、数十億ドルを超える買収を行ったほうが経済効率が優れているケースもあり得るでしょう。

 

新薬開発にかかるコストが膨らんでしまう理由として、臨床試験(治験)の成功率が極めて低い点が指摘されています。9割の臨床試験は失敗に終わるとの調査があり、10年~15年かけて期待された成分が、最後の最後で有効性に統計的な優位性が証明できず、日の目を出ないという事例が後を絶ちません。臨床試験の失敗の要因としては、被験者の選択ミス、複雑な手順、非効率な管理、スキル不足・指導力不足、統計学の理解不足などが指摘されています。

 

さらに、非臨床試験においては、53%の研究は再現性がないとの報告があります。日本ではSTAP細胞の再現性が大きな議論を呼びましたが、基礎研究の再現性は世界的な生物学を揺るがす課題にもなっているのです。研究手順やデータ分析・データ管理の手法のミスが、その大きな要因と報じられました。米国だけで毎年280億ドルが再現性のない生物・医学研究に費やされています。

 

まとめ

Pfizerの買収は、製薬企業におけるM&A拡大の好例と言えるでしょう。臨床試験に失敗が多く、リスクの高い研究開発活動を考えれば、買収を中心に企業の成長を考えるのも納得がいきます。一つの新薬発売に平均25億ドルの研究費がかかるのであれば、6つの新薬の開発費がMedivationの買収に使った140億ドルを上回ってしまいます。

製薬ベンチャーと、それに投資・買収をしかける大手企業の関係は今後も続いていくでしょう。実際、武田薬品工業などは、ベンチャーキャピタル事業を立ち上げ、製薬ベンチャーの投資活動に励んでいます。大手とベンチャーがうまく共存するエコシステムを構築した企業が製薬業界をリードしていく存在になると思われます。

 

タイトルとURLをコピーしました